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ALL YOURS 木村昌史は、お金による投票で若き才能に未来を託す。

お金の付き合い方は人それぞれ。どうやって稼ぐか、何に使うか、どれくらい貯めるか。そこに価値観や生き方が表れるような気がします。そこで、さまざまな人に聞いてみることにしました。「あなたにとってのお金とは?」を。今回話を伺ったのは、アパレルメーカー「ALL YOURS」の木村昌史さんです。

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木村昌史(きむら・まさし)|1982年群馬県生まれ。大学在学中より大手アパレル小売店で勤務。そのまま社員となり、店長やバイヤー、商品企画などの業務に携わる。その後、大手アパレル卸企業に勤務した後、2015年7月にアパレルメーカー「ALL YOURS」を設立。“インターネット時代のワークウエア”を掲げ、24ヶ月連続クラウドファンディングプロジェクトとして隔月でさまざまな商品を発表している。同社は、2018年に「第36回 毎日ファッション大賞」の大賞候補にもノミネートされた。

支援された分だけ、誰かを支援したい

——木村さんって、日々どんなものにお金を使ってるんですか?

新しいことに挑戦している人に使ってますね。もしかしたらクラウドファンディングで月に10万円くらい使ってるかも。最近もウール100%のTシャツをつくっている「rebel-23」っていうブランドに支援して。あと、僕のところに相談に来る人がいたら、ご飯を奢ったりとか。

——そうやって新しいことに挑戦している人にお金を出すのは、彼らの成長していく姿が見たいからなんですか?

それもあるんですけれど、単純に支援することが嬉しいから。うちの会社で「24ヶ月連続クラウドファンディング」というものを実施しているのですが、これって僕らを支援してくれる人がいるから成立するんですよね。すごく他力というか、自力じゃないんです。そうやって支援されて生きているからこそ、誰かを支援したいなって。

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——すると、自分への投資はあまりしませんか?

ほしいものがあれば買いますよ。でも、長く使えるものに限定していますね。しかも一括で購入することはあまりなくて。サブスクリプション的な感覚で買ってます。あえて分割払いにして、支払いが完了する頃になったらまた新しく何かを買う。そのサイクルを繰り返しています。そうすると、自分が月々にどれだけお金を使ってるのかがある程度わかるようになるから、無理な使い方をしなくて済むんですよ。で、残ったお金を若い子に使うっていう。

——それって昔からなんですか?

30代になってからですね。10代や20代の頃はとにかくお金を使いまくってました。おそらく、子どもの頃の反動だと思うんですけれど。親が厳しくて何も買ってくれなかったから。大学生のときは月に20万円くらい稼いで、給料日に18万円は使っていました(笑)。

——豪快ですね。何にそんなお金を?

その頃はヴィンテージウェアが大好きで。あとCD。このふたつにほとんどのお金を費やしていましたね。それで日々食べるものを切り詰めて生活して。でも、そんな消費ばかりの20代を過ごしたからこそ、現在のお金の価値観が構築されていった気がします。

——現在はどんなものに価値を感じてるんですか?

耐久力があって壊れないものとか、プロダクトとして完成度の高いものですね。例えば、僕は無印良品のリュックサックを使ってるんですけれど、ものすごくシンプルで使いやすいんですよ。バッグって、ものによっては間仕切りが細かくあったりするじゃないですか。でも、これはPCを収納できるポケット以外は何もなくて。これって開発者はまったく意図していないと思うんですけれど、ユーザーのクリエイティビティでどんなふうにでも使える。それってiPhoneに近いんですよね。外装は一緒だけど、中身は十人十色っていう。僕はそういう服がつくりたいんですよね。

——iPhoneのような服?

そうそう。機能を制限しながら、価値を最大化していきたい。

——木村さんがそういう服づくりに取り組むようになったのはどうしてなんですか?

長年接しているうちに、服はプロダクトとしてめちゃくちゃ未熟なものだと考えるようになって。

——それはどういう意味ですか?

まだ着れるのにもかかわらず、次のものがほしくなるじゃないですか。でも、同じプロダクトでも冷蔵庫やドライヤーってそういう使い方をしないですよね。おそらく、壊れるまで使うはず。そういうふうに、長く使える服をつくりたいなって。そうすると、必然的にシンプルなものになっていくんですよ。パーツが少ないほど機械が壊れにくいのと同じで、洋服も縫製箇所が少ないほど破れ難くなるから。

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——そうしたら、流行品にはあまり惹かれないですか?

そうですね。僕が若い頃はわかりやすく流行しているものがわかったんですよね。エアマックス95とか。でも、インターネットが生まれて、個人で情報発信ができるようになってからは村ごとに流行があるような感覚で。知ってる人は知ってるけど、知らない人は知らないっていう状況ができていて、何が本当に流行っているのかわからない。だから、追いかけるのもしんどいなって。あと、みんなの価値観もすごく変わっているような気がするんです。今だったらロレックスの時計をしているより、チープカシオくらいの方がかっこいいと思うんですよ。

——それはどういうことでしょうか?

身に着けるものがステータスの象徴ではなく、ステートメントの象徴になっているんじゃないかなって。そういう意味では、僕にとってお金は投票なんです。何を支持しているのかを購入したものが表明しているというか。だからこそ、どこの誰がつくった、どんな商品を使いたいかに意識を向けると、買い物ってすごく楽しくなるんですよ。

——確かに、お金を払うことへの満足感が変わる気がします。

しかも、どこの誰に使われているかもわからないことにお金を払いたくなくなるんですね。つい先日、運転免許証の更新があって、窓口で「交通安全協会の入会」への加入を勧められたんです。これまではなんとなく入っていたんですけど、今回はすんなり断って。月換算にしたら大したお金じゃないんですけどね、何か嫌だなって。

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他人よりも多くお金を払うことに価値を感じる人もいる

——木村さんにとってクラウドファンディングとの出会いは、人生の大きな岐路になっていますよね。それこそ、お金の考え方も変わったのでは?

そうですね。この3年くらいはクラウドファンディングからいろいろ学びました。特に面白いなと思ったのが、こちらが設定している金額よりも多めに支援してくれる人がいることですね。経済学では、値段を下げる方がお客さんに喜ばれるって学んできたのに(笑)。

——どういうことですか?

「お得に買う」って誰でもできることじゃないですか。でも、「人よりも高く買う」って一種のステータスになるから。そういうお金の使い方をする人がいるわけです。

——面白いですね。

言ってみれば、お札なんてただの紙じゃないですか。本当に価値があるのは、それをどう使うか。そこに意識を向けることだと思うんです。だから、もっと面白い人が顕在化して、そこにお金が流れていくといいですよね。今は、探して探して、ようやく見つかるくらいだから。最近だとエロデューサーとして活動している佐伯ポインティくんは、そのいい例で。

——というと?

言い方は少し悪いけれど、彼って何も実績がないのにも関わらずクラウドファンディングで700万円も集めて猥談バーを実現させて、さらに会社も設立している。つまり、不動産や貯金額などでは計れない指標で支持を集めることができたわけです。しかも、僕らもそれに加担することができる。これまで個人投資家にしかできなかったことが、普通の人でも実現できるんですよ。そうすると、1人から100万円を集めるのではなく、100人から1万円ずつ集めることができるようになるので、すごく民主的だなって。

——確かにそうですね。

これは聞いた話なんですけれど、投資家って社会的地位がある男性がほとんどらしいんです。そうすると、女性がほしいものが世の中に誕生しにくいじゃないですか。

——そうですね。

クラウドファウンディングも、これまでは7:3くらいで男性ユーザーが多い実感がありました。でも、最近はその割合が少しずつ傾いているらしくて。これから先、女性がもっと参加するようになると、新しいカルチャーが生まれるかもなって。

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お金だけでなく、生活もシンプルにしていきたい

——40代になったら、どんなお金の使い方をしていたいですか?

自分のことにお金を使わなくてもいいようになりたいですね。だから、最近は田舎で暮らすのもいいなって。薪割り好きなんですよ。

——お金だけでなく、生活自体をシンプルにしていきたいと。それで新しい才能にお金を使っていきたいわけですね。

そうですね。でも、できるならば人ではなく、その人がつくっているプロダクトに投資したいなって。相談を受けてアドバイスしたり、ご飯を奢ったりするのもいいんですけれど、僕がその人のつくったプロダクトを持ち歩くことで宣伝になるじゃないですか。

——それって、買ったCDを人に紹介するのと似てますよね。

そうかもしれないですね。そういえば僕、買ったCDを友だちに貸しまくってたんですけど、全然返ってきてない(笑)。そうやって考えてみると、昔から人に何かをするのが好きだったのかもしれない。人によっては、セミナーに通ったり英会話を習ったりっていう自己投資にお金を使ってると思うんですけれど。まあ、いろんな人を支援しておけば、僕が困ったときに助けてくれるんじゃないかなっていう打算的なところもありますが(笑)。

——100人に支援していたら、1人くらい成功して大金持ちになってそうですもんね。

そうそう。お金は天下の回りものって言いますし。まだしばらくは戻ってくる気配はないですけどね。

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文・ペイミーくんマガジン編集部 写真・山本華

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