龍崎翔子は、年齢に相応な価値観を保つために、お金による選択を増やさないようにしている。
お金の付き合い方は人それぞれ。どうやって稼ぐか、何に使うか、どれくらい貯めるか。そこに価値観や生き方が表れるような気がします。そこで、さまざまな人に聞いてみることにしました。「あなたにとってのお金とは?」を。今回話を伺ったのは、HOTEL SHE,KYOTOをはじめ、「ソーシャルホテル」をコンセプトにしたホテルを計5店舗プロデュースするホテルプロデューサーの龍崎翔子さんです。
龍崎翔子(りゅうざき・しょうこ)|ホテルプロデューサー。1996年生まれ。小さい頃にアメリカ旅行をしたときに、宿泊するホテルがどれも似たり寄ったりで退屈したことをきっかけにホテルプロデューサーに。母と共同でL&G GLOBAL BUSINESSを2015年に立ち上げ、現在は「ソーシャルホテル」をコンセプトにしたホテルを計5店舗プロデュース。また、2019年にはCHILLNNを創業。ホテルのD2Cプラットフォーム『CHILLNN』をリリースするなど、ホテルの可能性を広げている。@shokoryuzaki
普通の二十代であるために
——龍崎さんは大学生でありつつ、全国にホテルを5店舗持つ経営者でもあります。その点において、いわゆる一般的な二十代とはお金の使い方が異なる気がするのですが、実際のところどうですか?
普通ですよ。普通すぎて語ることがないくらい(笑)。
——本当ですか? ホテルの経営者になったことでお金の使い方に変化はありませんでしたか?
会社は現在6期目で、やっと軌道に乗ってきたばかりでまだまだ成長途上なので、1円も無駄にしたくないという気持ちが大きいです。創業1年目のときは無給で、その後も微々たる給与しか自分に出していなかったので、ホテルを始める前とお金の使い方やライフスタイルはそんなに変わっていないと思います。
——贅沢をしたいという気持ちもあまりないですか?
そもそもお金のために起業したわけではないので、そういうことへの憧れがあまりないんです。むしろ、消費のためだけにお金を使っていると「私なんかが……」ってストレスを感じちゃう(笑)。それに私は同世代と同じ金銭感覚でいたいので、これでいいのかなって。
——それはなぜですか?
同世代の空気感の中にいられるからですね。しかも、私はあまりマーケットリサーチとかしてなくて、自分がほしいものとか、あったらいいなと思ったものをつくるスタイルが好きなんです。ただ、結果的にそうなっているだけで、基本的には自分にとって心地良いお金の使い方をしているだけのように感じています。
——そうしたら、何にお金を使ってるんですか?
ほとんど使ってないですね。あえて言えば、関西・首都圏・北海道と各所に拠点があるので交通費かな。お金じゃないと解決できない課題にぶち当たったときに使うイメージです。選択肢がAかBしかないと思っていたところに選択肢Cをもたらしてくれるのがお金だと思っていて。でも、現時点ではAかBで満足しているので使っていないっていう。
想像の範疇に収まらない体験がしたい
——貯まったお金で何かしようとか考えてますか?
そんなに貯まっているわけじゃないですけど、会社や家族に何かあったときにすぐに使えるようにプールしておきたいですね。だから、自分のために……ということは何も考えてなくて(笑)。そもそもインスタントに消費欲を満たすことに罪悪感があるというか。服とか小物を買っても、使ってその瞬間にハッピーな気持ちになる以上のことが想像できないんですよね。だから、服も古着だし、家具もDIYするし。気に入ったものを長く使うタイプで、新しいものをあまり買わないんですよね。
——想像の範疇を超えられないものに対する価値が低いんですね。
それはありますね。まだ自分が体験したことのないものとか、非日常を知れることに対してはお金を使うかもしれません。そういう意味だと、自分の中で投資と消費がはっきり分かれているような気はします。消費に対してはかなりドライだけど、この体験をしたらこういう新しい視点が生まれるんじゃないかとか、そういう投資的な体験に対しての価値は高い気がします。
——そういうものって次から次に体験していくと、どんどん新鮮さが失われていきませんか?
そうですかね? 何が自分にとって新しい視点となるかは自分のアイデアでいくらでも工夫できると思っていて。例えば、英語しかわからないふりするだけで外国人旅行客の気持ちになれるし、店員の振りすれば店員の目線になれる。そういうのを通じて自分にはなかった視点を培えると思います。
——遠出をするとかではないんですね。
最近はいろんなところに足を運んでいたんですけど、よく言われている“移動距離とクリエイティブは比例する”っていう格言は私に当てはまらなかったと思っていて。その代わり、クリエイティブをもたらすのは移動距離じゃなくて非日常なんじゃないかという仮説が自分の中にあるので、非日常をもたらす方法をよく考えています。
“ホテルはメディアである”という思考
——龍崎さんのそういう思考は、ホテル経営にも反映されている気がします。例えば、レコードプレーヤーが部屋にあるとか。
あれは、友人からアナログのレコードプレーヤーをプレゼントされたことがきっかけだったんです。それで普段の生活に非日常な体験が生まれた気がしたので、ホテルにも導入しました。
——とはいえ、レコードプレーヤーを導入するからといって客単価が上がるわけではないですよね。なぜそこまでするのでしょうか?
私たちは“ホテルはメディアである”と考えているんですね。お客さんが体験したことのない“レコードのある生活”というライフスタイルを提案しているんです。レコードによって目先の客単価が上がるわけではないですが、お客様に対して本質的な価値を提供することが回り回って私たちのところになんらかの形で返ってくると思っています。
——そういった投資をする際の基準はあるんですか?
リスクヘッジはかなりしていますね。フェアケースとプアケースを両方考えて、どんなにしくっても逃げ切れると思ったら踏み切ります。ホテルをつくるときもそうですね。もちろんそれなりの投資が必要になってくるので、内心めっちゃ怖いです。そんなときこそ、ドライに数字を積み上げます。むしろ、きちんとした数字的根拠と出口戦略があるからこそ、攻めた投資ができるのかなと思っています。
年齢に応じたお金の使い方をしていきたい
——今後もお金の使い方を大きく変えようとは思ってないですか?
そうですね。今までと同じように人並みの金銭感覚でいたいです。
——とすると、年齢に応じて使うお金の金額も変わっていくと思うのですが、それによってホテルの雰囲気も変化していきそうですよね。
「HOTELSHE,」は今の私の価値観を大きく反映しているので、年齢を重ねることでホテルの在り方も変わっていくかもしれないです。それにホテル以外のことも考えていきたいので、それによる変化がこれからあるかも。
文・くりたまき 編集・村上広大 撮影・北村 渉