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映画監督・長久允は、映画業界のお金の回し方を変えることが自分の使命だと思っている。

お金の付き合い方は人それぞれ。どうやって稼ぐか、何に使うか、どれくらい貯めるか。そこに価値観や生き方が表れるような気がします。そこで、さまざまな人に聞いてみることにしました。「あなたにとってのお金とは?」を。今回話を伺ったのは、6月14日に自身初となる長編映画『ウィーアーリトルゾンビーズ』の公開を控える映画監督の長久允さんです。

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長久允(ナガヒサ・マコト)|1984年8月2日生まれ、東京都出身。大手広告代理店でCMプランナーとして働く傍ら、映画やMVなどで監督を務める。2017年、脚本と監督を担当した短編『そうして私たちはプールに金魚を、』が第33回サンダンス映画祭短編部門グランプリに輝き、日本人初の快挙を達成。『ウィーアーリトルゾンビーズ』で長編初監督を務めた。

予算と作風のバランスは常に悩みのタネ

——『ウィーアーリトルゾンビーズ』すごくワクワクする映画でした。これから長久監督にかかる期待もさらに大きくなっていくのかなと勝手に想像してしまいました。

ありがとうございます。ただ、これ以上の規模の映画になると商業的に成り立たせないといけなくなるから、それは悩ましいですよね。映画監督の純粋なアイデアからスタートさせるのが難しくなってしまうので。

——そうした話と関連するかもしれないのですが、本日は映画づくりとお金にまつわる話を伺いたいと考えています。特に日本映画は、決して潤沢とは言えない予算の中でどれだけアイデアをひねり出しておもしろいものをつくっていくかが醍醐味なのかなと個人的に思っていて。なかでも長久監督は、限られた予算の中ですごく趣向を凝らしている印象がしています。

僕の映画ってカット割りがとても細かいんですよ。それはテンポ感と情報量を大事にしているからなんですけど。だからこそ、お金のかかるスタイルだという自覚もあって。予算と作風のバランスについては常に考えていますね。

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——出演陣の中には佐々木蔵之介さんや永瀬正敏さんをはじめ、「こんな人が!」という方もたくさん登場していますよね。それはどうやって実現したんですか?

それはもうかなり無理なお願いをしていて。「1日でいいからお願いします!」みたいな。だから、快く引き受けていただいた方々には本当に感謝しています。次回作では、きちんとお金の面でも恩返しできるようにしたいですよね。

——カメオ出演もすごく多彩で豪華な印象があります。

今回は僕の長編デビュー作ということもあって、ご祝儀的な感じでみんな出演してくれたんですよ。でも、友情出演はクリトリック・リスやNATURE DANGER GANG、漫画家のかっぴーくらい。あとはゼロから出演をお願いしています。「お金はこれくらいしかお支払いできないんですけど、もしご協力いただけるなら……」って。

——そうすると、映画自体に魅力を感じて応えてくれた人が多かったんですね。

そうだと嬉しいですけどね。もちろん、おもしろいものをつくったという自信は100%曇りなくあって。それをきちんと伝える努力はしました。

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映画をつくるときは二重人格

——さきほど予算と作風のバランスは常に考えているとお話されていましたが、ある程度これくらいお金がかかるだろうと予想しながらストーリーを考えていくんですか?

いえ、ストーリーについてはまず自分の好きなように書きます。最初に予算をイメージしてしまうと自分の発想に制限がかかってしまうので。すべて書き終えた段階で、予算を管理しているラインプロデューサーから「これをすべて実現させるためには、これくらい制作費がかかります」と説明があって、はじめて頭を悩ますわけです。「これは参りましたね……」って(笑)。

——理想を追いつつ、その一方で現実的なところも見ていくわけですね。それって言葉で聞く以上に難題な気がします。

そうですね。映画をつくっているときは二重人格みたいでしたよ。少年の自分にストーリーを好き勝手に書かせて、その一方で大人の自分にはお金集めをさせるわけですから。もう精神がぐちゃぐちゃでした(笑)。

——今回の作品では、撮影に臨む前に個人でビデオコンテをつくり、無駄なく撮影できるようにしたそうですね。そういう予算がないからこそこだわった点って他にもありますか?

けっこうアナログ的な手法は使っていて。例えば、コンビニの壁をグラデーションにしたかったんですけど、塗る予算はないからコピー用紙を印刷して貼りました。あと浮浪者が出てくるシーンで、シルエットしかわからない人たちには黒いゴミ袋をかぶってもらったりもしていて。そういう知恵出しはほかにもたくさんしましたね。

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——パンフレットやポスターのディレクションも長久監督がご自身で担当されたそうですね。

はい。僕の妻がアートディレクターとして参加していたこともあって。だから、家でもこのレイアウトはどうだとか、パンフレットの紙の質感はどうするとか、ああだこうだ言いながら、たまに喧嘩もしながらやりとりしていました。でも、思考回路に無駄がないパートナーとやれたので、クオリティだけでなく、時間的にも効率良くつくれたと思います。

——そこまでこだわる映画監督は今の時代では少ないですよね?

監督がアートディレクションまで携わることってほとんどないみたいですね。でも、映画の世界観を守るためには関わった方が良いと思うんですよね。自分の伝えたい意図も明確になりますし。

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——長久監督って伊丹十三監督っぽいですよね。伊丹監督も映画だけでなく、パンフレットやポスターにも目を光らせて、自分の理想とするものをつくってましたから。

嬉しいです。伊丹監督は自分の憧れでもあるので。すごく深刻な問題を題材にしつつも映画芸術として成り立たせて、しかもエンターテインメントに昇華させてしまう手腕が素晴らしいなと。それに伊丹監督って途中から自費で映画を製作するようになるんですけど、その気持ちがすごくわかるんですよ。僕も自分の理想とする作品がつくりたいだけの人間なので。だから、伊丹監督がもし今も生きていたら、どうやってお金を集めるのかなと考えたりもします。例えば、Webメディアを立ち上げて、スポンサーから資金を集めてみるのはどうなんだろうとか。劇場は入場料を安くして、体験ができる場所にしたらどうだろうとか。そういう新しいお金と映画の関係を模索できたらいいなと思っています。

——自分の理想とする映画を製作するための環境を築いていきたいんですね。

もちろん、お金がなかったらもうそれでやるしかないですけどね。ただ、僕は映画業界のお金の回し方を変えていきたいんです。それが使命なんじゃないかって最近は思っていて。広告業界ってお金が回っているという点ではすごく健全だなと思うんですよね。そういう仕組みを映画業界でもきちんとつくっていきたいし、それが実現できたらみんな幸せだろうなって。多くの人がギリギリの状態で映画製作に携わってもらっているので。

——それこそ伊丹組では、映画が大ヒットしたときにものすごい金額のボーナスがスタッフに支払われていたそうですしね。

そんな取り組みや権利の持ち方もできたら良いですよね。僕、個人でお金を持つことにはそこまで興味ないんですけど、映画製作に携わってくれた人たちには感謝の気持ちとして報酬を払いたいから。今はまだ情熱と取り替えっこしかできないですが、10年後とかには実現したいなって。そのためには僕自身にもっとバリューがないとできないので、まずは後世に残るような作品をつくりたいですね。

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取材・文:ペイミーくんマガジン編集部 撮影:服部恭平

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『脚本・監督:長久 允
出演:二宮慶多、水野哲志、奥村門土、中島セナ、佐々木蔵之介、工藤夕貴、池松壮亮、初音映莉子、村上淳、西田尚美、佐野史郎、菊地凛子、永瀬正敏
©2019“WE ARE LITTLE ZOMBIES”FILM PARTNERS

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