ハヤカワ五味は、お金稼ぎと人に惚れ込む才能で経済に宣戦布告する。
お金の付き合い方は人それぞれ。どうやって稼ぐか、何に使うか、どれくらい貯めるか。そこに価値観や生き方が表れるような気がします。そこで、さまざまな人に聞いてみることにしました。「あなたにとってのお金とは?」を。今回話を伺ったのは、ランジェリーブランド「feast」などを手がける株式会社ウツワのハヤカワ五味さんです。
ハヤカワ五味(はやかわ・ごみ)|1995年東京都生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。株式会社ウツワ代表取締役社長。高校1年生の頃からプリントタイツ類のデザインや販売を受験の傍ら行う。大学入学直後にアパレルブランド「GOMI HAYAKAWA」を立ち上げたことを皮切りに、2014年8月にランジェリーブランド「
人に奢られたご飯は味がしない
——今って何にいちばんお金かけてますか?
冷静に考えると家賃じゃないですかね。13万円くらい。でも、すごく狭くて。1Kの6.8畳。そこにセミダブルのマットレスを入れています。
——なぜ狭いのにその家に?
立地と環境ですね。これまでは学校に通いやすい場所で選んでいたから、どうしてもフットワークが重くなることがあったんですけれど、それが嫌で。今はいろんな場所に行きやすくなったので、ご飯の誘いとかも気軽に乗れるので嬉しいです。
——狭さはそこまで気にならず?
これまでそんなに広い家に住んでいなかったから、あまり気にならないですね。掃除も楽だし。
——そうしたら、生活のほとんどをベッドの上で過ごしている感じですか?
それがヤバいと思ったので、最近になってソファを買いました。
——6.8畳の部屋にセミダブルのマットレスとソファがあったら、ほとんど埋まってますよね。
でも、広く見えるような工夫はしてるんですよ。ローテーブルの天板を透明のものにしたり、カーテンじゃなくてブラインドにしたりって。
——服とか食事にはあまりお金はかけないですか?
そこまで大きなお金は使っていないかもしれないですね。
——どうして家にそこまでお金をかけるのですか?
私、2年前までお金がなさすぎて彼氏の家に居候していたんですけれど、そのときの経験が大きいかも。
——あんまりお金がないイメージがなかったので意外です。
当時はすべてのお金を仕事に費やしていたんですよ。だから、家賃を払うお金もなくて。最初は当時オフィスにしていた木造の平屋に寝泊まりしていたんですけれど、冬が寒すぎて彼氏の家に居候するようになったんです。それで家賃も光熱費も払わずにパラサイト(寄生)していて。でも、そうすると次第に自分で意思決定ができなくなってくるんですね。
——どういうことでしょう?
例えば、急に彼氏から別れを切り出されたら、その瞬間に住む場所がなくなるじゃないですか。だから、ご機嫌を取るじゃないけど、その人の望む私を演じるようになって。ある意味で依存ですよね。それで自立することの重要性を悟りました。今は家賃を払うこと、ほしいものは自分で買うこと、本当に食べたいものは自分で払うことを決めてます。
——そうしたら、今のお金の価値観はその頃に形成されたんですかね?
そうですね。
——ハヤカワさんくらいの年齢だと、年上の人から奢られることも多そうですが、そういうこともあんまり好きじゃなく?
自分でお金を払って食べたご飯しか味がしないんですよね。変に気を遣ってしまうというか。もちろん関係性にもよるんですけれど。一方的に「ご馳走してやるよ」みたいなスタンスで来られるのはすごく苦手ですね。どれだけ高いご飯でも全然おいしくない。
クリエイター支援に150万。でも、見返りは期待しない
——これまでにいちばんお金を使ったものは何ですか?
クリエイターの支援に1年間で150万円くらい使ったことがあります。
——150万! ちなみに、どうして支援を?
私、もともとクリエイターになりたかったんです。ただ、私には自分の名前を売っていくだけの能力がなかったから。それだったら、周囲にいる才能がある人たちに投資したいなって。
——それでも、簡単には出せない額ですよね。
そうですね。でも、「あなたの作品は10万円の価値がある」って口で言うのは簡単じゃないですか。そうではなく、きちんとお金を払って証明することが、クリエイターにとっての大きな自信になるのかなって。そうやって圧倒的に評価されることで得られる成功体験ってけっこう重要だから。
——それって基本的にはギブの関係だと思うんですけれど、ハヤカワさんが得られたものって何ですか?
私は、テイクを意識しないギブがすごく大切だなと思っていて。そもそも私が好きでやっていることだから、そこにテイクを望んでも何も得られないのは当然のことで。それって社長と社員の関係でも同じだと思うんですよ。例えば、社員のためを思って100時間考えて絞り出したひと言が、何も響かないことなんて当たり前のようにあるし。
お金稼ぎと人に惚れ込む才能だけはあるみたい
——ハヤカワさんってRPGが好きですよね。ゲーム内でどうやってお金を使いますか?
私は最初の方で一気に使ってしまうかも。中盤以降からお金に変えられないアイテムが増えてくるから。そうすると、どんどんお金の価値が低くなっていくんですよ。それは現実世界でも同じことで。お金で買えるものは早いうちに手に入れてしまった方がいいと思います。スキルとか経験とか環境とか。
——それはどうして?
経験値が蓄えられると、判断の幅が広がるんですよね。例えば、お寿司もいちばん高いものをまず食べてしまう。そうすると1から100まで知ることができるじゃないですか。そういう経験を積むのって早ければ早い方がいいのかなって思います。つい先日、沖縄旅行でリッツカールトンに宿泊したんですけれど、ホスピタリティに感銘を受けたし、それによって得られた経験って絶対にどこかで活きてくるから。ちなみに、沖縄から帰ってきてリッツカールトンの本を読んで、あらためて感動しました(笑)。
——ハヤカワさんってあんまりお金に価値を見出していないですよね。多分、家だってもっといいところに住もうと思ったら住めると思うんです。
もちろん最小限のお金は必要だと思うんですけれど、あとは会社に投資しているかもしれないですね。今年になってから講演会とかnoteの収益もすべて会社に入れているので。
——そこまで会社に投資しているのはどうしてなんですか?
店舗ができたのが大きいですね。それで気合いが入ったというか。正直なことを言えば、私個人としての活動を大きくしていった方が収入は増えると思うんですよ。それをしないのは、会社としてやった方が面白いことの方が多いから。
——ハヤカワ五味として活動するより、会社経営の方が面白いですか?
私、ハヤカワ五味というキャラクターに対してあまり腑に落ちてないことも多くて。メディアを通して見えるのって、どうしてもキラキラした部分が多いけれど、私自身は挫折の繰り返しばかりだと思ってるし、ピンだとガチでやばい人なんですよ。記憶力ないし、どんぶり勘定だし。それをフォローしてくれる人がいてこそ輝くと考えています。だから、自分にない才能を持つ人たちに惚れ込むのかなって。
——プロデューサー的なポジションなんですかね。
そうかもしれないですね。誰かの人生に関与したい気持ちが強いから。私にはクリエイターとしての特別な才能はなかったけれど、お金稼ぎと人に惚れ込む才能だけはあるみたいなので。将来的にはもっとクリエイター支援に本腰入れたいなと思っています。生活のために創作活動を諦める人がいるのが悔しいというか、経済に対しての負けだなと思うのが嫌だから。
文・ペイミーくんマガジン編集部 写真・室岡小百合
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