sio 鳥羽周作は、想いがお金の価値を超えたとき、漢気と愛でMAXBETする。
お金の付き合い方は人それぞれ。どうやって稼ぐか、何に使うか、どれくらい貯めるか。そこに価値観や生き方が表れるような気がします。そこで、さまざまな人に聞いてみることにしました。「あなたにとってのお金とは?」を。今回話を伺ったのは、代々木上原にあるレストランsio(シオ)のオーナーシェフ鳥羽周作さんです。
鳥羽周作(とば・しゅうさく)|1978 年5⽉5⽇⽣まれ。サッカー選⼿、⼩学校教員を経て、32 歳で料理の世界へ。『DIRITTO』『Florilage』『Ariadi Tacubo』などで研鑽を積み、フレンチレストラン『Gris』のシェフに就任。2018年7⽉、オーナーシェフとして⾃⾝のすべてを出し尽くしたレストラン『sio』をオープン。
2500万円をどう使うかでビビっている自分がいた
——鳥羽さんって、これまでどんなものにお金を費やしてきましたか?
自分、服が超好きなんですよ。若い頃なんて、バイトの給料はもちろん、お金がないときは借りてでも買ってましたし。
——けっこう荒く使ってたんですね。
買うまではすごく慎重で、何度もお店の前を行ったり来たりして悩むんですけど、買うと決めたらためらわなかったですね。当時は「時知らず」っていうお店が大好きで、近くの飲食店でバイトして稼いだ18万円とか20万円を握りしめてお店に行って、その日のうちに全額使ってましたから。それだけでなく、仲良くなったスタッフにお弁当をつくって持って行ったりもしてましたし。
——お弁当までつくるなんて。鳥羽さん、めちゃくちゃ貢いでるじゃないですか。
でも、そうやって服にお金を使っていたからこそ、得ることができたものがけっこうあるんですよね。その当時のスタッフがいろんなところで活躍していて、スタッフの靴を支給していただいたほか、うちの店のユニフォームもつくってもらったりしています。
——今になって投資した分は返してもらっていると。
返ってきたというより、繋がってきたという感覚ですね。まあ、そんな感じでバイトしていた頃はお金を自由に使えてたんですけど、料理人になったらまったくお金が貰えなくて。
——意外です。
雇われシェフをやっていたとき、もうこれ以上頑張れないくらい働いて、連日予約の取れない店にまでしても、生活が劇的に変わることがなかったんですよ。これだけ結果を出せたら奥さんを喜ばせることができるし、新しい冷蔵庫も買えると思ったのに。その先のビジョンがまったく見えなくなって、もう自分でやるしかないなって。それでお店を買い取ったんです。
——そんな経緯があったんですね。
で、お店を新しくオープンするにあたって運転資金として借り入れを含めて2500万円を用意して、経営を勉強するためにいろんな人に会うことにしたんです。その過程で何百億円という規模でお金を動かしている社長さんと知り合って。
——すごい方ですね。
僕はそれまで50万円とか100万円という世界でしかものを見たことがなかったんですけど、これから先、彼らと仕事をしていくためにはどうしたらいいんだろうと考えたら、2500万円をどう使うかでビビっている自分が小さく思えてきて。もう全額突っ込むことにしたんです。そしたら一気に世界が変わっちゃって。最近はお金のことでビビらなくなりました。
——視座が上がったと。
今は、飲食で100億円の価値を生むにはどうしたらいいかを必死になって考えてるんですけど、そしたら2500万円なんてすごく小さな金額じゃないですか。それくらいのスケールで見ていかないとダメだなって。
——具体的に考えていることはあるんですか?
飲食業界で100億円規模の売り上げを出しているのってインフラを構築したところなんですね。だから、それをどうやって自分たちでつくっていくかなんですよね。それにはアジアのマーケットなどを見る視野が必要だと思ってます。
自分の知らないことにお金をかけると未来に繋がる
——最近は何にお金をかけていますか?
体験ですね。例えば、新幹線移動のときはいちばん良い席に座るとか、都内を移動するときは電車を使わずタクシーを利用するとか。そうやって意識的にグレードを上げるようにしています。でも、贅沢がしたいわけじゃないんです。「なぜこの価値なんだろう」っていうのを知るのがすごく大事だなと思って。
——価値を知りたいと?
この前も京都にある俵屋さんという創業300年以上の老舗旅館に泊まったんですけど、部屋に入った瞬間に無音なんですよ。この時代に音がしない空間があるってすごくないですか? そこで外出もせず、ずっと本を読んでたんですけど、あれは本質的で贅沢な体験でした。
——そんな場所があるんですね。でも、どうしてそこまで体験にこだわるのでしょうか?
僕、流行ることは死ぬことだと思ってるんですね。終わりが見えるから。だからこそ、自分が知らないことにお金を使うことが未来への投資になるんじゃないかなって。
——流行とは違った価値を知りたいということなんですね。
そうです。それにお金の使い方ってすごく重要じゃないですか。ただ1億円を持っていてもそれ自体に意味はなくて、「何に」「誰に」「どのように」って自分で意志を持ったときにはじめて価値が生まれる気がするんです。
——そうですね。
だから、ご飯も自分のお金で食べた方がいいと思うんですよ。自腹で5万円払って食べるとなったら、超集中するじゃないですか。下手に奢られたりすると価値が薄くなるというか。だから、ハヤカワ五味さんが「奢られるのはあんまり好きじゃない」ってこの前のインタビューで言ってて、超わかると思いました(笑)。
人のポテンシャルにお金を使っていきたい
あと、最近は周りの人のためにお金を使うことが増えましたね。オーナーシェフになったら服をめちゃくちゃ買おうとか思ってたんですけど、実際になってみたら自分のためにお金を使うことにあんまりテンションが上がらなくて。それよりも、スタッフ全員にプレゼントとしてマフラーを贈ったりする方が楽しいです。
——お金の価値観が変わったのかもしれないですね。
将来的には料理人のための投資ファンドをつくりたいんですよね。
——どうして投資ファンドを?
飲食業界って、投資対象としては魅力があんまりないんですよ。そこまで儲からないから。でも、おいしい料理をつくれる人が日本全国に一人でも増えたら、それだけで価値があると思うんですよ。
——確かに。新しい料理が食べたいという人は一定数いそうですね。
普通だったらお金でリターンを貰うと思うんですけど、人材で返してもらうようにしたくて。例えば、うちの若い子が独立するときに僕が運転資金を出す代わりに、若手を一人育ててうちの店に送り出してもらうとか。いろいろと考えています。
——おもしろいですね。
人のポテンシャルにどんどんお金を使っていきたいんですよね。だけど、みんなやらないから自分でやろうかなって。ちなみに会社にとって、いちばんの財産はなんだと思いますか?
——ありきたりですけど「人」ですか?
そう! だから、僕はスタッフにお金を使う。この業界ではありえない額のボーナスを払いたいし、彼らが何かやりたいと思ったときに全力で応援できるようにしたいんです。例えば「鳥羽さん、新しいドリンクの提供の仕方を思いついたんでグラスをすべて交換してください」と相談されたときに「任せろ」と言うのが僕の仕事だし、そういう環境を整えてこそ、最高の料理が生まれると思うので。だから、チームに対しては上限なくお金を使いたいんですよね。
金額に勝る想いが価値を決める
——そうやって誰かのためにお金を使うことで、鳥羽さん自身に見返りってあるんですか?
それ、いつも考えてるんですけど、ただ単純に応援したいだけなんですよ。金額に勝る想いがあるかが重要で。実は今、中川政七さんが社長を務めている「奈良クラブ」というサッカークラブのスポンサーになろうと考えていて。
——なぜスポンサーに?
単純に彼らのやってることがカッコよすぎて。おもしろいな、応援したいなって思ったんですよ。そんなことを奈良クラブの関係者と一緒に食事をしているときに考えて、その場でスポンサー料として100万円払うって決めました。時間にしたら5秒くらいの出来事なんですけど、10年後にはとても価値のあるものになると確信しています。勝ち馬を応援することは誰でもできるので、最初の段階から応援したいんです。そうやってお金の価値を自分のなかで膨らませることも大切だなって思います。
——お金の価値を膨らませる?
はい。うちの店でおしぼりとして使っているIKEUCHI ORGANICのタオルがわかりやすいんですけど。なんでこれを使おうと決めたかというと、IKEUCHI ORGANICのお店に行って実際に使ってみたらすごく肌触りがよくて。しかも説明を聞いたら、もう5年は使っているタオルだったんです。そのときに社長の阿部さんが「鳥羽さん、タオルはデニムと一緒で育てるものなんですよ」って。
——カッコいい。
その言葉に感動して100本購入したんですけど、品質が本当にいいから毎回のように喜ばれる。しかも、僕はあと5年間はこのときのエピソードをお客さんに話すことができる。だから、買い値は数万円だけど、自分のなかでは1000万円くらいの利益が出てるんですよ。そう考えたら、お金の価値って膨らんでいるじゃないですか。それは実際に利益としても出ているんです。
——けっこう儲かってるんですか?
すごく下世話な話、日本の飲食店の利益率って10〜15%くらいが相場なんですけど、sioはその倍以上の利益を出していて。それをスタッフに還元しています。
——それはすごいですね。
こんなに利益出ているレストランって多くはないと思いますよ。税理士さんが慌ててましたからね。
——そういう仕組みをつくったということですか?
そうです。なんでそんなことが実現できているかというと、うちの店って料理以外のものにすごくお金をかけているんです。例えば、さっき話したおしぼりもそうですけど、音楽も沖野修也さんっていう"サウンド・ブランディング"の第一人者に頼んでいて。でも、そういうものって減価償却が終わるとほとんどコストがかからないから利益に還元できるんです。それに今って、トリュフとかキャビアにお金を払う人は減っていて、どちらかというと料理を食べている時間にお金を払う人が増えているんですよ。そこに対するアプローチをレストランとしてどうやっていくかが重要だなと。だから、2019年は映画のような感覚で料理を提供していこうと考えています。
——映画を観るような感覚?
これまでは旬の食材を使ってどれだけおいしい料理がつくれるかという視点で考えることが多かったんですけど、今年からはコースをひとつの映画に見立てて、それぞれの料理を物語の文脈にしていきたいんですよ。1品食べただけで考えると「あれ?」というようなものでも、10品すべて食べたときに「なるほど」と納得感のあるようなものにしたくて。だから、すべてのお皿が主役である必要がないんです。
——それは料理の順番やドリンクとのペアリングなどもトータルに楽しんでほしいということでもありますよね。
そうです。でも、それを実現していくにはお客さんの食に対するリテラシーを上げていくことが必要だし、そのためには信用じゃなくて、信頼を勝ち取っていくことも大切だと思うんですよね。
——信用じゃなく、信頼?
僕にとって、信用は食べログのような数字で見える“実績”で、信頼は「sioの料理を食べたい」っていう“想い”なんですけど。信用って積み重なっていくとチャレンジ精神を奪われてしまうんですね。評価を下げたくなくなるから。そうすると、抜いた刀を収めるみたいな感じになっちゃうんですよ。本当は攻めた料理をつくりたいけどできないみたいな。だから、常に攻めた状態で、たまに失敗もしながらもお客さんと一緒に成長していけるような店にしたいんですよね。
文・ペイミーくんマガジン編集部 写真・室岡小百合
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