飯髙悠太を襲った、300万円持ち逃げ事件。
人間、誰だってお金の失敗くらいある。連載「お金に負けた日」では、人がどんな失敗をして、その度にどうやってその局面を乗り越えてきたのかを探ります。3回目に登場するのは、これまで50社以上のコンサルティングを担当し、現在はソーシャルデータ分析などを行う株式会社ホットリンクでCMOを務める飯髙悠太さん。なんと過去に2度もお金を持ち逃げされた経験があるとか。そうしたお金の失敗から学んだこととは?
飯髙悠太(いいたか・ゆうた)|広告代理店や制作会社で複数のサービス・メディアを立ち上げる。2014年に「ferret」の立ち上げに伴い株式会社ベーシックに入社後、「ferret」創刊編集長、執行役員を務め、2018年12月末に退職。2019年より株式会社ホットリンクで執行役員CMO(マーケティング責任者)を務め、支援企業のSNSコンサルティングを実施している。(@yutaiitaka)
人を疑うのは、すごくストレスだから
——飯髙さんってお金の失敗ありますか?
ありますよ。僕、25歳のときに借金したことがあって。
——えっ! それはどういった経緯で?
結婚が決まった友人がいたんですけど、キャバクラにハマって借りたお金をどうにかして精算したいというので。
——それで貸せる器の大きさがすごい。
お嫁さんになる人も知り合いだったから放って置けなくて。でも、そのとき僕は200万円しか持ってなかったので、消費者金融に行ってわざわざ100万円借りて。
——友人にお金を貸すために、自分で借金までするなんて……。
その友人はすでに消費者金融を利用していて、もうどこからもお金を借りられない状態だったから。そしたら、自分が借りるしかないかなって。なんでそこまで優しくできたのか今から考えるとすごい謎なんだけどさ(笑)。
——そのお金は返してもらえたんですか?
いや、貸したらそのまま音信不通(笑)。お嫁さんも置いてどっかに逃げちゃった。だから、そのまま借金を肩代わりすることになって。
——マジですか。
あと2年前にも別の友人に100万円貸して、それも未返済のまま。彼とは今も親しい間柄で、つい先日も飲みに行ったんだけど、「今日はおごるよ」なんて調子のいいこと言ってくるからさすがにキレちゃった。おごる前に貸した金を返せって(笑)。
——合計400万……。
でかいっちゃ、でかいよね。
——いや、でかすぎます。
2人目はなんとなく返ってこないだろうなって気がしたんだけど、思わず貸しちゃって。今だったら絶対に出さないけどね。自分でも思うけどバカなのかもしない(笑)。
——どうして返ってこないと思ったのに貸そうと思ったんですか?
人を疑うのってすごくストレスだから。疑心暗鬼になると自分の状態が悪くなるの。だから、基本的に人を信用するようにしているし、裏切られてもすぐに忘れるようにしてる。
——飯髙さんの言う“人を疑わない”って、裏を返せば“人を信用できない”からだと思うんです。
ああ、確かにそうかも。
——それって過去に何か裏切られた経験があるからですか?
4歳の頃に両親が離婚しているのが大きいかもしれない。家族ってこんなに簡単にバラバラになるんだって思ったから。あと、学生時代にサッカーをやってたんだけど、レギュラー争いがすごくて。妬まれたり、裏切られたりするのなんて当たり前のことだったから。
——チームメイトは仲間であり、ライバルでもあったと。
でも、高校の同級生に会うとそんな妬んでなかったっていうから、かなり悲観的に捉えていたんだと思う。警戒心が強かったのかも。
——昔は人を疑う気持ちが強かったんですね。
あと、お金の有無で人間関係が簡単に変わることを知ってるのもあるかな。
——というと?
僕、大学生のときは死ぬほど働いていて、月に100万くらい稼いでたんですよ。それで同級生とご飯を食べるときはいつも奢っていて。でも、新卒になると月に20万円くらいしかもらえなくなるじゃないですか。そしたら、サッーと離れていくわけ。僕が仕事で調子いいときはチヤホヤしてくるのに、転職したりくすぶると途端に連絡が来なくなる人もいて。その後、成果を残して会社役員になったら再び連絡が来るようになるっていう(笑)。信用できないから、連絡が来ても無視してる。でも、悪いときにも相談に乗ってくれたりした人は、今でもすごくお世話になってる。
——信用できる人とできない人はどうやって判断しているんですか?
薄っぺらい人は嫌いかな。なんか表面的に付き合うのって疲れません? 逆に弱みを出してくれる人とかはすぐに信用しちゃう。けっこう単純なんですよ。
お金は使わないければ、ただの紙切れでしかない
——借金を肩代わりするという経験を経て、お金に対する意識に変化はありましたか?
心の余裕が全然違うよね。借金をしていた頃は、給料日になると電卓を叩くのがクセになっていたし。だって、返済とクレジットカードの引き落とし、あと家賃とか光熱費とかで引かれる金額を計算していくと手元に3万円くらいしか残らないんだよ。
——手元に3万円しか残らないのは精神的にきついですね。
でも、返済を終えたら手元に20万円くらい残るようになるから、もう生活が一変しましたよね。
——価値観も変わりましたか?
変わったかも。そもそもお金って、手元にあるだけだったらただの紙切れじゃないですか。何の価値もない。だから、意味のあることに使おうと考えるようになりましたね。その一方で、めちゃくちゃ高い飯を食べようとかは思わなくなったかな。あと、昔は服が大好きで、ボーナスが出るとセールですべて使ってたんだけど、その行為が自分をダメにしていると思ってセーブするようになった。
——では、どういうものに使うように?
今でも服は好きだから本当にほしいものがあったら買うんだけど、いちばんは本かな。サッカー推薦で大学に入ってるから、勉強ができない自覚があって。それを補う感覚。本がいちばん効率的に学べるから、毎月20〜30冊は買ってる。
——けっこう買ってますね。
10冊くらいは読むけど、あとは積みっぱなしだけどね(笑)。あと、誰かとご飯を食べに行くときは好きな本を聞くようにしていて。
——それは何か理由が?
その人の価値観がなんとなくわかるから。教えてくれた本がまだ読んだことのないものだったら、すぐに買って読んで感想文を送るの。そうすると、さらにおすすめの本を教えてくれたりするんだけど、それってすごく低コストで相手の思考を垣間見ることができるんだよね。その相手が仮に大成功した経営者だったら、その価値ってめちゃくちゃ高いし。
——本から思考を読み解く、と。
そう。あとは人と会って会話をするのが単純に好きなんだよね。
——そうやって本にお金を使うようになって、何か変化したことはありますか?
人間としての幅が広がった気がするかな。そもそも本を読むのってすごく贅沢だと思ってるから。時間ってどんな人にも平等に与えられている唯一のものなんだけど、本を読むためだけに2時間や3時間を費やすのってすごく貴重。しかも楽しみながら費やせるのって、自分にとっては非常に有益なことだなと。
重鎮にはなりたくないから、下の世代を育てたい
——これからはどんなお金の使い方をしたいですか?
そろそろ若い人に頑張ってほしいんだよね。だから、若い人のためにお金や時間を使っていきたい。大学の講義とかがあったら、無料でも喜んでやる。それで優秀な子が増えてくれれば、僕が主戦場にしているSNSもさらに豊かになるんじゃないかなって。
——豊かさについてもう少し教えてください。
例えば、SEOには原理原則があるけど、SNSにはまだスタンダードがない。でも、TikTokとかはすでに僕らの世代には理解できないでしょ。
——そうですね。
そういうものは若い子に先導してほしいなって。それに重鎮みたいな人がいつまでも居座っていると行動しにくいし。自分がそうならないようにするためには、下の世代をきちんと育てていかないと。
文:すみたたかひろ 編集:ペイミーくんマガジン編集部 撮影:大森めぐみ